「どうして、私はいつも…」と悩んでいませんか?
SNSで誰かと比べて落ち込み、小さなミスで自分を責めてしまう…。
そんな心の息苦しさを、感じていませんか。
この記事では、まず自分を責めてしまう心の仕組みを優しく解き明かし、
その上で、
①思考のクセを和らげる言葉、
②焦る気持ちを落ち着ける身体の使い方、
③自分だけの価値を見つける夜の習慣
という、3つの具体的な解決策を丁寧にお伝えします。
心理学の知見に基づいた、誰にでもできる簡単な方法なので、読み終える頃には、きっと、あなたの気持ちを楽にするヒントが見つかるはずです。
どうぞ、肩の力を抜いて、読み進めてみてください。
もしかして私も?つい自分を責めてしまう人の「7つの口グセ」
さて、まず最初に、ご自身の心のクセを、ほんの少しだけ客観的に眺めてみることから始めましょう。
これは、あなたを診断したり、「だからダメなんだ」と評価したりするためのものでは、決してありませんから、どうか安心してくださいね。
私たちが日々、何気なく使っている「言葉」には、自分でも気づいていない思考のパターンが、そっと隠れていることがあります。
「ああ、自分にもこんなところがあるかもしれないな」
と、ご自身の心を優しく観察するような気持ちで、眺めてみてください。
【自分責め度の簡単チェックリスト】
-
「どうせ私なんて…」
-
「もっと〇〇しなきゃ…」
-
「すみません」(謝る必要がない場面で)
-
「全部、私が悪いんだ…」
-
「普通は〇〇なのに…」
-
「ちゃんとしなきゃ…」
-
「なんで私は、いつもこうなんだろう…」
いかがでしたか。
実は、これらの言葉の裏側には、あなたの真面目さや、周りを思う優しさが隠れていることも多いのです。
一つひとつ、少しだけその健気な本音を、紐解いていきましょう。
口グセ | その言葉に隠された、あなたの素敵な一面 |
「どうせ私なんて…」 | 期待して傷つくのが怖い、繊細でデリケートな心。 |
「もっと〇〇しなきゃ…」 | より良くなりたい、と願う真面目さと向上心の高さ。 |
「すみません」 | 周りの人に迷惑をかけたくない、という謙虚さと優しさ。 |
「全部、私が悪いんだ…」 | 物事を自分ごととして捉えられる、責任感の強さ。 |
「普通は〇〇なのに…」 | 周りと調和しようとする、社会性の高さ。 |
「ちゃんとしなきゃ…」 | 役割を全うしようとする、誠実さと几帳面さ。 |
「なんで私は、いつも…」 | 自分をより良くしようと、深く内省する力。 |
そう。
あなたのその口グセは、決してあなたをいじめるためだけに存在しているわけではないのです。
ただ、その素晴らしい長所が、少しだけ、あなた自身に向かって厳しくなりすぎているだけなのかもしれません。
これらの言葉は、知らず知らずのうちに、あなたの心のエネルギーを少しずつ漏らしてしまう「小さな穴」のようなもの。
大切なのは、まず
「ああ、私にはこんな口グセがあったんだな」
と、その存在に気づいてあげること。
それだけで、本当に、大きな大きな一歩なんですよ。
【この章のポイント】
無意識に使っている口グセには、自分を責めてしまう思考パターンが隠れています。
その口グセの裏には、あなたの真面目さや優しさといった、肯定的な側面も隠されています。
自分を責める必要は全くなく、まずは「自分にはこんなクセがあるんだな」と、ただ気づいてあげることが何よりも大切です。
「自己受容」とは?甘えや諦めとは違う、本当の意味
前の章で、ご自身の心のクセに、少しだけ光を当ててみました。
そうすると今度は、
「やっぱり、こんな自分じゃダメだ」
「このままの自分を受け入れるなんて、ただの甘えじゃないか?」
そんな声が、心のどこかから聞こえてくるかもしれませんね。
ええ、そう感じてしまうのは、とても自然なことです。
私も、自己受容という言葉を初めて聞いた時、
「諦め」や「諦観」
のように感じていましたから。
ですが、ここで言う「自己受容」は、決して成長を諦めることや、自分を甘やかすこととは、少しだけ意味合いが違うのです。
その大切な違いについて、少しだけお話しさせてください。
良い自分もダメな自分も「そういう天気なんだな」と受けとめる
「ありのままの自分を受け入れましょう」
本当に、よく聞く言葉ですよね。
でも、正直なところ、具体的にどういうことなのか、あまりピンとこない。
これは、自分の心をまるで「空模様」のように、ただ、ありのままに眺めてあげる感覚に近いのかもしれません。
空には、気持ちよく晴れ渡る日もあれば、土砂降りの雨で憂鬱な日もあります。
かと思えば、一日中どんよりと曇っている日だってあります。
でも私たちは、雨が降っている日に、空に向かって「なんで雨なんだ!」と腹を立てたり、空を責めたりはしません。
「ああ、今日は雨なんだな」
と事実を受け止めて、傘をさしたり、家で静かに過ごしたりと、その日の過ごし方を考えます。
自己受容も、これと少し似ています。
私たちの心も、天気のように、刻一刻と移り変わっていくもの。
仕事がうまくいって、自信に満ちている「晴れの日」の自分。
理由もなく不安で、何も手につかない「雨の日」の自分。
そのどちらが良いとか、悪いとか、そういう評価や判断を、一旦ぜ~んぶ横に置いて、
「そっか、今、私は不安なんだな」
「ああ、今日は疲れているんだな」
と、今の自分の心の状態を、ただ静かに気づいてあげること。
それが、自己受-容の、とても優しくて、そして大切な第一歩なのです。
自己受容は成長のストッパーではなく、次の一歩を踏み出すための「土台」
それでも、こんな声が聞こえてきそうです。
「でも、ダメな自分をそのまま認めてしまったら、本当に成長できなくなってしまうんじゃないか?」
ええ、その不安は、これまで真面目に、一生懸命に頑張ってこられたあなただからこそ、感じてしまうものだと思います。
ここで、カウンセリングの世界でとても大切にされている、ある言葉をご紹介させてください。
20世紀を代表する臨床心理学者の一人、カール・ロジャーズが残した、こんな言葉です。
「奇妙な逆説は、私が自分をありのままに受け入れたとき、私は変わることができる、ということだ」
…少し、不思議な感じがしますよね。
変わろうとすればするほど変われなくて、変わらなくてもいい、と受け入れた時に、人は変わっていける。
これは、家づくりに例えると、とても分かりやすいかもしれません。
自分を「ダメだ、ダメだ」と否定し続けている状態は、ひび割れて、カチカチに固くなった土地に、無理やり家を建てようとしているようなものです。
そんな不安定な土地では、どんなに立派な家を建てようとしても、すぐに傾いてしまいます。
まずは、「なるほど、これが今の私の土地なんだな」と、その土地の状態(今の自分)を、良いも悪いもなく、ありのままに受け入れる。
そうして、その土地を柔らかく耕し、栄養を与える(自分を労わる)ことで、初めてその上に、頑丈で素敵な家(成長)を、安心して建てていくことができるのです。
ですから、
自己受容は「もう変わらなくていい」という成長のストッパーではありません。
むしろ、「ここから、安心して変わっていける」という、最も安全で、最も確かなスタートラインに立つための、勇気ある一歩なのです。
【この章のポイント】
自己受容とは、良い・悪いと評価せず、今の自分の心の状態を「天気」のように、ただ受けとめることです。
それは決して「甘え」や「諦め」ではなく、むしろ自分らしく成長していくための、最も大切な「土台」作りです。
カール・ロジャーズが言うように、「ありのままの自分」を受け入れたとき、初めて人は、安心して次の一歩を踏み出すことができます。
なぜ私たちは、自分を受け入れるのがこんなにも難しいのか?
前の章で、自己受容が成長のための「土台」になる、というお話をしました。
それでも、頭では分かっていても、心がなかなかついてこない。
気づけば、いつものように自分を責めてしまっている…。
そんな自分に、また嫌気がさしてしまうかもしれませんね。
私も、そうやって何度も何度も同じ場所をぐるぐると回っているような感覚に、よく陥っていました。
でも、どうか安心してください。
自分をなかなか受け入れられないのは、決してあなたの心が弱いからとか、性格が悪いから、というわけではないのです。
その背景には、私たちが人間である以上、抗いがたい「脳の仕組み」や、知らず知らずのうちに影響を受けている「社会の空気」が、深く関係しています。
そのことを知るだけで、きっと、ご自身を責める気持ちが、少しだけ和らぐはずですよ。
理由① 脳の仕組みにあった「自分を守るための」自己批判
誰かに褒められた嬉しい記憶よりも、何気なく言われた、たった一言の批判の方が、いつまでも心に棘のように残り続けてしまう…。
そんな経験は、ありませんか?
実はこれ、とても自然なことなんです。
なぜなら、私たちの脳はもともと、
ポジティブな情報よりも、ネガティブな情報を優先的に記憶し、強く反応するようにできているからです。
これは、脳科学の世界で「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれている、人間の脳が持つ基本的な性質の一つなんですね。
少し、想像してみてください。
遠い昔、私たちの祖先が、まだ自然の中で暮らしていた頃のことです。
目の前に咲いている美しい花(ポジティブな情報)に気づくことよりも、茂みに潜む肉食獣の気配(ネガティブな情報)に気づくことの方が、生き延びるためには、遥かに重要でした。
危険を敏感に察知できる個体ほど、生き残る確率が高かった。
その、自分を守るための生存戦略が、現代を生きる私たちの脳にも、脈々と引き継がれているのです。
つまり、あなたが仕事での小さなミスをいつまでも引きずってしまったり、自分の短所にばかり目がいってしまったりするのは、あなたの心が弱いからではない。
むしろ、あなたを危険から守ろうとする、脳の健気な警報システムが、少しだけ過剰に働いている状態、と言えるのかもしれません。
そう思うと、自分を責めてしまう思考そのものに対しても、少しだけ、
「いつも見守ってくれて、ありがとうね」
なんて、優しい気持ちになれませんか。
理由② 完璧を求める社会と、心を軽くする東洋の知恵
私たちの内側にある脳の仕組みに加えて、私たちが日々暮らしている、この社会の「空気」も、自己受容を難しくしている大きな原因の一つかもしれません。
SNSを開けば、誰もが成功し、充実した毎日を送っているように見えます。
会社に行けば、常に成果を求められ、「できていること」よりも
「できていないこと」に、どうしても目が向きがちになります。
私たちは知らず知らずのうちに、
「完璧でなければならない」
「常に成長し続けなければならない」
という、目に見えないプレッシャーの中で生きているのです。
そんな、常に何かを目指し、足りないものを埋めようとする考え方に、もし少し疲れてしまったなら…。
東洋には古くから伝わる、「あるがまま」という、心を軽くしてくれる知恵があります。
例えば、古代中国の思想家である老子は、「無為自然」という考え方を説きました。
これは、
「何かになろう」と無理に頑張るのではなく、自然の流れに身を任せ、今ここに「ただ在る」ことの豊かさに気づく、
という視点です。
完璧を目指すことに、少し疲れてしまったなら。
「まあ、今の自分は、こんなもんか」
と、ふっと肩の力を抜いてみる。
これは、決して「諦め」ではありません。
むしろ、自分を大切にするための、とても積極的で、賢い選択なのです。
東洋の賢人たちは、きっと、そんなあなたの選択を、優しく見守ってくれるはずですよ。
【この章のポイント】
自分を責めやすいのは、危険を察知して自分を守ろうとする、脳の「ネガティビティ・バイアス」という仕組みが関係しています。
常に完璧や成長を求める社会のプレッシャーも、自己受容を難しくしている一因です。
「あるがまま」を受け入れる東洋の知恵は、そんなプレッシャーから心を軽くしてくれる、もう一つの大切な視点です。
今日からできる自己受容 心が楽になる3つの簡単な方法
さて、ここからはいよいよ、具体的な実践編です。
自分を責めてしまう心のクセの背景には、私たちの脳の仕組みや、社会の空気が関係していることが分かりました。
では、そのどうしようもないクセと、私たちはどうやって上手に付き合っていけばいいのでしょうか。
大丈夫。
難しいトレーニングや、特別な時間はまったく必要ありません。
ここでは、あなたの日常のほんのすきま時間で、まるで凝り固まった心をそっとほぐすストレッチのように、気軽に取り組める3つの簡単な方法をご紹介します。
思考、身体、そして物事の捉え方。
それぞれ、少しだけ違う角度からのアプローチです。
「これなら、今の私にもできるかも」
そう思えるものを、どれか一つ、お守りのように試してみてくださいね。
方法①【思考の習慣】頭の中の「自分責め」を止める、優しいツッコミ
仕事でミスをしてしまった時、頭の中で「なんで私はいつもこうなんだ…」という、厳しくて冷たい声が響き渡る…。
そんな経験、ありますよね。
その厳しい声の主を、あなたの頭の中に住んでいる、とても真面目で厳しい「裁判官」だと想像してみてください。
この裁判官は、いつもあなたに完璧を求め、少しの失敗も見逃してはくれません。
私がお勧めしたいのは、その裁判官の隣に、あなたのことを何でも知っている、一番の味方である「優しい親友」を、そっと座らせてあげるイメージです。
具体的なステップは、たったの2つです。
-
Step1 まず、気づく
「あ、また裁判官が出てきて、私を責めているな」
まずは、その声の存在に気づくだけで、100点満点。自分を責めている自分を、客観的に眺められている、ということですから。
-
Step2:心の中で、優しいツッコミを入れる
その厳しい声に対して、あなたの親友なら、なんて声をかけてくれるでしょうか?
心の中で、そっと、こんな風に呟いてみてください。-
「まぁまぁ、そんな日もあるって」
-
「大丈夫、大丈夫。人間だもの、完璧にはできないよ」
-
「次、気をつければいいじゃない。そんなに自分をいじめないで」
-
大切なのは、裁判官の声を無理やり消そうとしたり、論破したりしようとしないことです。
ただ、厳しい声が聞こえたら、その隣で、優しい声もそっと響かせてあげる。
私自身、今でも10回中10回できるわけではありません。
でも、1回でもできたら、「よしよし」と自分を褒めてあげる。
そのくらいの気楽さで、ちょうどいいのだと思います。
方法②【身体の習慣】焦りや不安が消える「1分間・触れるマインドフルネス」
私たちの心は、不思議なもので、放っておくとすぐに過去や未来へと旅に出てしまいます。
そして、
「あの時、ああすれば良かった…」
という後悔や、
「この先、どうなってしまうんだろう…」
という不安を、お土産のように持って帰ってきがちです。
心が「今、ここ」にない状態ですね。
そんな時は、心を「身体」という、いつでも安心して帰ってこられる“安全な港”に、そっと連れ戻してあげましょう。
これも、とても簡単です。
特別な時間や場所は、まったく必要ありません。
仕事の合間に、椅子に座ったままでもできますよ。
-
Step1 今、身体が「何かに触れている一点」に、意識を向ける
例えば…-
パソコンのキーボードに触れている、指先の感触
-
椅子に座っている、お尻や太ももの感触
-
床についている、足の裏の感触
-
手に持っている、マグカップの温かさ
-
-
Step2 その感覚を、評価せずに、ただ1分間だけ味わう
「温かいな」「硬いな」
「少し圧迫されているな」…
頭に浮かぶ考えを追いかけるのではなく、ただ、身体が感じている、そのありのままの感覚に、意識を集中させてみてください。 -
Step3 もし、考え事が浮かんできたら…
きっと、途中でいろんな考え事が浮かんできます。それは、ごく自然なことです。
そんな時は、「あ、考え事してたな」と、それに気づいて、またそっと身体の感覚に意識を戻してあげれば、それで大丈夫。
ぐるぐるとした思考の嵐から、意識のチャンネルを強制的に「身体の感覚」に切り替える。
それだけで、心はすっと「今」に戻ってくることができます。
心がザワザワしてきた時のお守りとして、ぜひ試してみてください。
方法③【夜の習慣】自分だけの価値基準を育てる「寝る前の優しい習慣」
私たちはつい、他人からの評価や、目に見える大きな成果といった「外側のものさし」で、自分の価値を測ってしまいがちです。
そのものさしを、少しずつ、自分の内側に取り戻すための、ささやかで、でも、とてもパワフルな夜の習慣があります。
ここでは、いくつかのバリエーションをご紹介しますので、今日のあなたの気分に、一番しっくりくるものを試してみてくださいね。
基本の習慣 今日の“できたこと”探し
まず基本となるのが、この習慣です。
寝る前に、手帳やスマートフォンのメモ帳に、
今日、あなたが「できたこと」を、たった一つだけ書き出してみてください。
ここで、一番大切なポイントがあります。
それは、誰かに褒められるような「すごいこと」である必要は、全くない、ということです。
例えば、こんなことで、十分すぎるくらいなんです。
眠くて大変だったけど、朝、ちゃんと時間通りに起きられた。
苦手な人に、挨拶だけはできた。
疲れていたから、自分を甘やかして、好きなお菓子を食べさせてあげた。
道端に咲いている花が、綺麗だと一瞬でも感じられた。
私たちの脳は、残念ながら、できなかったこと(減点)は、放っておいても自動で探してしまいます。
だからこそ、意識して、できたこと(加点)に、優しく光を当ててあげる練習が、とても大切なのです。
『できたこと』を探すのが、なんだか宿題のように感じてしまう日も、あるかもしれません。
そんな時は、無理をしなくて大丈夫です。
今日の気分に合わせて、こんな習慣も試してみてください。
-
① 感謝日記をつけてみる
今日あった出来事の中から、感謝したいことを一つだけ見つけてみましょう。「できたこと」が見つかりにくい日でも、「感謝」なら見つけやすいかもしれません。
-
例:「美味しいコーヒーを淹れてくれたカフェの店員さん、ありがとう」
-
例:「一日、文句も言わずに頑張ってくれた私の身体、ありがとう」
自分以外の誰かや、当たり前にある環境に目を向けることで、心が温かくなるのを感じられるはずです。
-
-
②「明日の小さなご褒美」を考える
自分を振り返る気力もないほど疲れてしまった日は、明日、自分のためにしてあげたい「小さなご褒美」を一つだけ考えてみましょう。-
例:「仕事帰りに、気になっていたコンビニの新作スイーツを買ってみよう」
-
例:「いつもより少しだけ長く、お風呂に浸かる時間を作ろう」
未来への小さな楽しみを作ることで、少しだけ前向きな気持ちで、一日を終えることができます。
-
これらの習慣に共通しているのは、
一日の中にあった「プラスの側面」に、意識的に光を当てる練習だということです。
この小さな習慣を続けることで、他人からの評価に揺らがない、「自分だけの“大丈夫”」が、あなたの心の中に、静かに、でも着実に育っていくはずですよ。
【この章のポイント】
【思考】自分を責める声に気づいたら、「まぁまぁ」と親友のように優しいツッコミを入れてみましょう。
【身体】焦りや不安を感じたら、1分間だけ、身体が何かに「触れている感覚」に意識を集中させてみましょう。
【解釈】寝る前に、どんなに些細なことでもいいので「今日できたこと」を一つだけ見つけて、自分を認めてあげましょう。
ありのままの自分を受け入れると、日常に起こる5つの嬉しい変化
前の章でご紹介した3つの方法は、どれも本当にささやかなものだったかもしれません。
「こんなことで、本当に何かが変わるんだろうか?」
そう思われるのも、無理はないと思います。
自己受容は、一朝一夕に完成するものではありません。
でも、まるで乾いた土に水をあげるように、毎日少しずつ、自分に優しさを注いであげると、あなたの心には、そして日常には、確実に嬉しい変化が訪れはじめます。
ここでは、その代表的な5つの変化について、ご紹介させてくださいね。
私自身が、実際に感じてきた変化でもあります。
① 他人の評価に一喜一憂しなくなる
これまでのあなたは、上司の何気ない一言や、SNSで見た友人の活躍に、心が大きく揺さぶられて、一日中、気分が落ち込んでしまうことがあったかもしれません。
自己受容が進むと、自分の中に「自分だけのものさし」(価値観)が育っていきます。
もちろん、人から褒められれば嬉しいし、批判されれば少しは傷つきます。
人間だもの。
でも、その他人の評価が、あなたの価値のすべてではなくなります。
他人の言葉は「あくまで、その人の意見の一つだな」と、少しだけ距離を置いて、冷静に受け止められるようになるのです。
あなたの心の中に、どっしりとした、揺るぎない「自分の軸」が育っていく感覚です。
② 失敗を恐れず、次の一歩を踏み出せる
「また失敗したら、どうしよう…」
「みんなに、できないヤツだと思われたくない…」
そんな恐怖が先に立って、新しい仕事に挑戦したり、会議で自分の意見を表明したりすることを、無意識のうちに避けてしまっていたかもしれません。
自己受容ができるようになると、「失敗すること」と「自分の価値」を、切り離して考えられるようになります。
失敗は、あなたがダメな人間である証拠ではない。
それは、「次にもっとうまくやるための、ただのデータ」に過ぎない。
そう思えるようになると、失敗への過剰な恐怖から、心が解放されます。
完璧じゃなくてもいいから、とりあえずやってみよう。
そんな風に、軽やかに次の一歩を踏み出せるようになっていくのです。
とはいえ、
無理やりなんでもポジティブにするのはおすすめしません。
③ 人間関係のストレスが、驚くほど軽くなる
「この人に嫌われたくないから…」
その一心で、本当は乗り気じゃない誘いに付き合ったり、自分の気持ちを押し殺して、相手に合わせてしまったり。
人と会うたびに、なんだかどっと疲れてしまう…
なんてことはありませんでしたか。
自分を大切にできるようになると、同じように、相手のことも尊重しながら、自分自身の「心地よさ」も、ちゃんと守ってあげられるようになります。
断るべき時には、相手への配慮は忘れずに、でも、穏やかに
「ごめんね、今回は難しいんだ」
と、自分の意思を伝えられるようになる。
自分と相手の間に、お互いを尊重するための、健全な「心の境界線」を、引けるようになるのです。
④「〜すべき」から解放され、心が自由になる
「母親だから、こうすべき」
「社会人なら、こうあるべき」
「長女なんだから、しっかりすべき」
「もう中学生・高校生なんだから~すべき」
世間や誰かが決めた、たくさんの「べき論」に心を縛られて、もう本当に息苦しさを感じてしまいますよね。
でも、自己受容が進むと、そんな心の声が聞こえてきた時に、
「本当に、私はそれをしたいのだろうか?」
と、自分の心の声に、優しく耳を傾けられるようになります。
誰かの期待に応えるためではなく、自分自身の「〜したい」という、純粋な気持ちを大切に行動を選べるようになります。
⑤ 自分の中から「やりたいこと」が自然と湧き上がってくる
毎日、「自分はダメだ」と自分を責めることに、私たちは、膨大な心のエネルギーを消耗しています。
それはまるで、底に穴の空いたバケツに、必死で水を注ぎ続けているようなもの。
それでは、何か新しいことを始める気力なんて、湧いてこなくても当然ですよね。
自己受容は、その心のエネルギー漏れを、優しく修復していく作業です。
自分を責めることに使っていたエネルギーが、少しずつ、あなたの心の中に蓄えられていく。
そうすると、心に「余白」が生まれます。
その余白から、忘れていた昔の趣味や、「これ、なんだか面白そう」という、ちょっとした好奇心が、まるで春の地面から双葉が出るように、自然と、ぽこっと湧き上がってくるのです。
【この章のポイント】
自己受容が進むと、他人の評価に心が揺さぶられにくくなります。
失敗を過度に恐れなくなり、人間関係のストレスも軽くなります。
「〜すべき」という縛りから解放され、心が自由になります。
自分を責めることに使っていたエネルギーが解放され、心に「余白」が生まれます。
どうしても「自分を好きになれない」…そんな気持ちが消えない時は
ここまで、自己受容のための様々な方法や、その先に待っている嬉しい変化について、お話ししてきました。
もしかしたら、あなたも少しずつ、実践してくださっているかもしれませんね。
でも…。
それでも、どうしても。
心の奥底から、「こんな自分が大嫌いだ!」という気持ちが、嵐のように湧き上がってくる日も、きっとあると思います。
「色々やってみたけど、やっぱりダメじゃないか…」
そんな風に、うまくできない自分を、また責めてしまっているかもしれません。
大丈夫ですよ。
そんなあなたにこそ、最後にお伝えしたい、大切なことがあります。
無理に好きにならなくていい。「嫌いな自分」がいてもいい
もし、今、あなたがご自身のことを「どうしても好きになれない」と感じているのなら。
どうか、思い出してください。
自己受容の本当の目的は、無理やり自分を好きになることではないのです。
「自分を嫌いだ」と感じている心は、まるで、部屋の隅で膝を抱えて、泣きじゃくっている子どものようなものかもしれません。
その子に向かって、
「泣くのはやめなさい!」
「いつまでそうしているの!」
と、頭ごなしに叱りつけても、その子は余計に心を閉ざしてしまうだけです。
火に油を注ぐようなものですよね。
一番大切なのは、まず、その子の隣に、ただ黙って座ってあげること。
そして、
「そっか、そんなに嫌なんだね」
「つらいんだね」
と、その子の気持ちを、否定せずに、ただ、
受けとめてあげることです。
それと同じように、「自分を嫌いだ」という感情そのものを、無理に消そうとしなくていいのです。
「そっか、今、私は自分のことが、こんなにも嫌だと感じているんだな」
その感情の存在自体を、まず、あなたが認めてあげる。
泣いている子どもの背中を、そっとさすってあげるように。
「嫌いな自分」がいなくなることを目指すのではなく、
「嫌いだと感じている自分」と、一緒にいてあげる。
それこそが、自己受容の、最も深く、そして最も優しいあり方なのかもしれません。
あなたは一人じゃない。科学が示す「セルフ・コンパッション」という光
「こんなにも自分のことが嫌になってしまうなんて、自分はなんてダメなんだろう…」
そんな風に感じている時、私たちは、まるでこの広い世界でたった一人ぼっちで、分厚い壁に囲まれてしまったような、深い孤独を感じてしまいますよね。
ここで、あなたに知っておいてほしいものがあります。
それは、テキサス大学の心理学者である、クリスティン・ネフ博士が進めている
「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」という研究です。
博士の研究は、私たちに、本当に大切なことを教えてくれます。
それは、
「不完全であること、失敗すること、そして、思い通りにならずに苦しむことは、あなた個人の欠陥なのではなく、私たち人間全員に共通する、ごく自然な経験である」
ということです。
これを、博士は「共通の人間性」と呼んでいます。
つまり、あなたが今感じているその苦しみや、自分を嫌だと感じてしまう気持ちは、あなたが「ダメな人間」である証拠ではありません。
むしろ、あなたが、他の誰とも同じ、不完全で、愛おしい「人間」である、何よりの証拠。
【この章のポイント】
自己受容とは、無理に自分を好きになることではありません。
「自分を嫌いだ」と感じてしまう、その気持ちの存在自体を、まずは優しく認めてあげましょう。
不完全であることや、苦しむことは、あなた一人だけの経験ではなく、私たち人間全員に共通する自然なことです。(出典:クリスティン・ネフ『セルフ・コンパッション』)
【まとめ】焦らなくていい、比べなくていい。あなただけの道を、あなたのペースで
自分の心と、静かに、そして真剣に向き合うことは、時にとても勇気がいることです。
ここまで読み進めてくださったあなたは、それだけで、ご自身を大切にしようとする、本当に素敵な一歩を踏み出しています。
この記事では、自分を責めてしまう心のクセから始まり、その背景にある脳の仕組みや社会の影響、そして、気持ちを楽にするための3つの具体的な方法を見てきましたね。
もし、たくさんの情報で、頭がいっぱいになってしまったなら、今はすべてを覚えていなくても大丈夫です。
ただ、一つだけ、心の片隅に置いておいていただけたら嬉しいな、と思うことがあります。
それは、
自己受容とは、完璧な人間になるためのものではない、
ということです。
むしろ、雨の日に「ああ、今日は雨なんだな」と知るように、不完全な自分や、
うまくいかない自分も含めて、
「これが、今の私なんだな」
と、ただ、気づいてあげること。
その優しい眼差しこそが、すべての始まりなのです。
もし、あなたがこの記事を閉じた後、何か一つだけ、ご自身のために小さな贈り物をするとしたら…。
今夜、眠りにつく前に、今日一日を精一杯生きたご自身の胸に、そっと手を当ててみてください。
そして、
「おつかれさま」
と、心の中で、優しく呟いてみてはいかがでしょうか。
誰かに聞かせるためでもない、あなただけの、たった一言で十分です。
その温かい一言が、あなたの心の固くなった部分を、ほんの少しだけ、ほぐしてくれるかもしれません。
その小さな、優しい習慣の積み重ねが、あなたを他人や過去の呪縛からそっと解き放ち、あなただけの心地よいペースを取り戻す、大きな力となってくれるはずです。
焦らなくていいんです。
比べなくていいんです。
あなたの歩む道は、他の誰とも違う、あなただけの、かけがえのない尊い道なのですから。
その道のりを、あなたらしく、健やかに歩んでいかれることを、心から応援しています。
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このブログでは、今回のような心のあり方に加えて、あなたにとっての「豊かさ」や「幸せ」とは何かを探求していくための、様々な考え方をご紹介しています。
もしよろしければ、他の記事も、あなたの心の指針を探すヒントにしてみてくださいね。
【さいごに】
この記事でご紹介した方法は、気持ちを楽にするための一つの”考え方”であり、医療行為に代わるものではありません。
心のつらさが長く続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、決して一人で抱え込まず、専門の医療機関やカウンセラーにご相談ください。
【参考文献】
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クリスティン・ネフ (著), 石村 郁夫 (監修), 冨田 奈緒子 (翻訳) 『セルフ・コンパッション―あるがままの自分を受け入れる』金剛出版, 2014年